
みなとみらい労働法務事務所 所長
菊 一 功
第5回目のコラム 2007.07.01
物流のコンプライアンス —危険に対する感性を持て— | 菊 一 功
1. 偽装請負旋風
近年、「偽装」という言葉が世間を騒がせています。牛肉偽装、耐震強度、原発におけるデータや事故の改ざん・虚偽・偽装、さらにこの6月の食肉偽装まで、この2年間は偽装請負が社会問題になりました。
ご承知のとおり、契約上は請負であるが実態は労働者派遣であるものを、偽装請負と呼んでいます。
偽装請負があまり注目されない平成17年夏ころ、川崎市内にある大手製造業の安全担当者達との雑談の中で、偽装請負のことを話題にしたところ、親会社が送検されたことに衝撃を受けていました。
その後、偽装請負旋風が日本を巻き込むことになりました。
2. コンプライアンス
コンプライアンスは、日本語では「法令遵守」と訳されていますが、今日では企業の社会的責任が問われており、法令を守るだけでなく、社会的規範や企業倫理を守ることまでも含まれる、とするのが一般的です。
今、企業のコンプライアンスが重要な課題となっているのは、一連の偽装事件が、その会社の運命を左右していることからもご理解できるかと思います。
最近の厚生労働省関係でコンプライアンス違反として注目を集めたものとして、
- (1) 大手製造業を中心として行われた偽装請負
- (2) サービス残業
- (3) 介護サービス大手で発覚した大規模な介護報酬の不正請求
- (4) 労使の自主的な書面による協定なく、「日雇い派遣労働者」の給与天引き
が上げられます。
「働きが悪い」から労働保険の長期未加入やサービス残業をさせた経営者、「元請にバレたくない」から労災隠しをした下請経営者等は、目の前の小さい利益を追うあまり違法行為に走るものであり、発覚による不利益は送検を含む厳しい処分となっています。ここには発覚しないという、根拠のない楽観的な期待があるようですが、いずれの経営者にも危機管理能力が欠如しているからと思います。
発覚はしないものと思いがちですが、その多くは内部告発によるものです。
「根拠のない楽観的な期待」は、日本人の楽観的性格からくる危険性でもあります。この背景には、前例踏襲主義、無策・無責任、事なかれ主義、横並び主義があります。
3. コンプライアンス違反の企業環境
過去の事例をみると、次のような、企業のコンプライアンス環境要因が浮かび上がります。
- (1) 金儲け第一主義・営業第一主義を公言する経営者
- → 社会のルールの範囲内での営利活動であるものの、ルールを勝手に解釈している例や安全を軽視する例が多い。
- (2) 独裁的な体質をもつ同族経営者やゲーム感覚をもつ若手経営者
- → 他人の意見を聞かない例が多い。
- (3) 急激な事業規模の拡大で、管理部門が手薄でチェック機能がなされない場合
- → 間接部門の経費を極端に削減した結果、チェック機能が喪失した例がある。
4. 危機管理
物流の現場責任者は、営業管理、品質管理、在庫管理、コスト管理等の他に、作業員の労務管理や安全衛生管理まで幅広い管理責任が求められています。この管理責任には、当然コンプライアンスしなければなりませんが、常に危機管理の意識も不可欠となります。
労働環境における会社の危機要因として、
- (1) 労働災害被災者に対する高額な損害賠償の支払い
- フォークリフト転倒や荷物の落下による圧死・高所からの墜落他
- (2) 倉庫や事務所の火災・爆発による事業継続困難
- (3) セクハラ、過労死・過労自殺等の多発及び損害賠償支払い
- (4) サービス残業や日雇い派遣の違法な天引き(40億円もの遡及支払い等も)
- (5) 環境情報の捏造や労災隠し等による処分
- (6) 行政処分(営業停止、公共工事の指名停止、営業許可不更新等)
- (7) 信用失墜(マスコミ報道による社会的制裁、手抜き工事の発覚)
- (8) 司法処分
等が上げられます。
サービス残業等労働基準法違反では、現場責任者のほか、企業の社長・役員まで刑事責任を追及され、企業名が新聞報道されている例もあります。
労働災害における民事損害賠償も高額になっており、安全にも費用対効果の意識が必要になっています。
5. 偽装請負と責任
下請の責任者が不在のため、発注者が物流センターの運営・管理を指揮したため偽装請負と認定され、大切なお客様である発注社が、労働安全衛生法違反(事業者責任)で送検される事態となると、下請としては発注者に対し金銭では償えない、大事な信用を失うことになります。
偽装請負とならないためにも、下請としての責任を自覚し、責任と権限を有する現場責任者の配置が求められます。
6. 物流の現場管理者に求められるもの
現場管理者は、作業員に対して労働時間等の労務管理及び労働災害防止の安全管理に関する権限と義務を有しています。
法を知らないで違法行為を行なっている例も多々ありますので、必要最低限の法知識とコンプライアンスの知識は必要です。知らなかったという理由は行政には通用しません。
労働災害の防止は、現場責任者の安全意識に左右されます。現場責任者に求められるのは、危険を危険と感じる能力、危険に対する感性です。
そして、危険と意識した場合の改善に向けての迅速な決断と実行です。
次の表(理想的な現場責任者)は、現場管理者に対し、労務・安全管理に限らず、あらゆる管理面で求められる事項です。
| 理想的な現場責任者 | 無策・無責任な現場責任者 | ||
|---|---|---|---|
| 情報の収集力がある | 危険に対する感性がある | 情報不足である | 危険に対する感性が不足 |
| 判断が正確である | 危機管理が徹底している | 判断が甘い | 危機管理が徹底している |
| 対応が迅速である | 行動力と実行力がある | 対応が遅い | |
| 現実を直視している | 現実から逃避している | 根拠なき楽観論 | |
| 責任者の責任ある行動である | 責任者が無策である 結果に対する責任がない | ||
なお、「危機管理」とは、「情報収集の確立」、「危険に対する感性の確立」、「決断力・実行力」、「危機拡大防止」、「再発防止」です。
