
株式会社アイオイ・システム
代表取締役社長
多田 潔
http://www.hello-aioi.com/
第10回目のコラム 2008.06.10
製造と物流のデジタル化で日本発世界標準へ | 多田 潔
=== 究極の省配線ネットワークで現場力を向上する ===
プロローグ
従来、信号(データ)と電力(エネルギー)の伝送は別々にそれぞれ2本以上の線を使って行われている。私たちがテレビを視聴したり、パソコンでインターネットの情報にアクセスするとき、別々の電力線と信号線を接続しなければならない。私はマイコンを利用したさまざまな通信・制御関連のシステム開発を生業としているのだが、大分前からその設計・開発の過程で、電力と信号の伝送のために別々の線を接続する煩わしさに、時折苛立ちを感じていた。「なんとかならないものか」と私の頭の隅に何時もこの問題を解決する術が大きな課題として記録されていた。
20年ほど前から、私はこの面倒な問題を解決する技術的課題への挑戦を開始し、しばらくは寝食を忘れて、電力と信号を同じ2本線を使って伝送する方式を考案した。その成果が極性のない2本の線で信号と電力を伝送することができる究極の省配線ネットワークシステム、AI-NETである。
今やAI-NETは国内はもとより海外でも製造と物流の現場力を支えるネットワークシステムとして高い評価を頂いている。
またこのAI-NETにさまざまなセンサーや制御装置を繋ぐことで、工場や倉庫の温度、湿度、照度、電流、雑音などの状態を観測したり、きめ細かな制御を行うことが可能となる。これが、アイオイ・システムのデバイスネットワークシステムであるSmart-AIと呼ばれるシステムに進化したのである。
1. 製造・物流作業支援システム
製造でも物流でも常にその効率向上が大きな課題であることは言うまでもない。もちろん人間作業系に替わる自動機械系によって自動化を進めれば、飛躍的な生産性や精度の向上が可能になる。しかし、自動機械系では設備投資額が莫大になるだけでなく、保全体制にも難がある。私は、人間作業系の効率向上、つまり、作業生産性の増大と作業精度の向上に集中してその方向性を模索した。
元来、作業生産性と作業精度は二律背反的関係にある。私は生産性、すなわち作業スピードと作業精度を阻害している要因がどこにあるのかについて、国内外の多くの工場や物流センターの現場を訪問する度に観察してきた結果、すでにご承知のように、作業者に「持たせない、読ませない、考えさせない、探させない、歩かせない」ことを徹底的に追求していけば、作業効率が向上できるという、作業現場改善の定石を確認することができた。
情報技術が日進月歩で進化している今日でも、作業者への指図が生産指図書や出荷伝票、またピッキングリストなど印刷物=ペーパーで提示されているのが現実だ。情報提示手段がペーパーである限り、それを作業者に「持たせて、読ませて、考えさせて、探させて」いることになるのは当然のこと。徹底的にペーパーレスワークにすべきである。その結果として、デジタル表示器に作業指図を提示するデジタルピッキングシステム(DPS)が高い評価を得ることになったのである。
2. 作業支援システムへのこだわり
DPSは当初、物流センターの作業効率化の一環として、さまざまな商品のオーダーピッキング作業に利用されたことから、命名されたのだが、この方式は既に米国でも従来の4線式通信方式で1970年代に開発され利用されていた。しかし、米国でこの方式が開発される前から、日本でも1960年代に自動車製造工場でシーケンサー(PLC)に電球を繋いで作業者のポカヨケのためにランプガイドステムとして利用されていたと聞いている。誰しもが同じようなことを発想するものである。いずれにせよ、煩雑なピッキング作業であっても、また仕分け作業の経験のない新人の作業者にも、迅速に簡単にできるということで、DPSが普及することになったのは言うまでもない。こうした中、アイオイ・システムのDPSが多くの競合を押しのけてトップシェアになることができたのは、現場で汗する作業者を支援するというキイワードを常に忘れなかったからだと信じている。誰にでも簡単に保守できるように、極性のない2本の線に多数のデジタル表示器が接続できるという利点も勝因のひとつである。
現場で汗して少しのミスも許されない作業者を何とかして支援したい。私は、もともとコンピュータ技術者だったが、コンピュータは計算する機械であっても、現場を支えているのは汗して働いている方々なのだ。機械であるコンピュータは大量のデータを瞬時に計算し、加工して工場や倉庫に指図する帳票を出力してくれるのだが、「帳票を読んで作業する身になってくれ」という作業者の叫び声が聞こえてきた。アイオイ・システムのDPSは現場作業者に明るい火を灯すことになったのである。
3.構内位置情報システムの実現
私は、「発想は人間に与えられた特典である」と思っている。いくらコンピュータが進化してもコンピュータ自体が発想することはできない。私たち人間の得意技は発想することだということを強く意識して、何時でも何処でも誰でもが発想することをやめないでほしいのである。私はさまざまな物に興味を持ち、何時でも何処でも物の美しさとそれぞれの役割を考えるようにしている。彼らは何のためにどうしてここに在るのか。倉庫でも工場でも道端でも店でも家でも、役割のない物など存在しないはずだから、それぞれの役割を考える。そこに発想の原点があると思っている。
車を運転するとき、カーナビは、地図を見なければならないドライバーにとって効果的に支援してくれる。これは便利だということで、私はドライブでは常にカーナビを利用している。特に海外では理解しにくい言葉だけに頼らなくても、カーナビは巧みに私を助けてくれる。「そうだ、これを倉庫や工場でも利用できないだろうか」と私は発想した。誰でも何処でも迷わずに作業ができるのではないか。その発想がアイオイ・システムの位置情報システムとして開発されたのである。カーナビは人工衛星の電波で位置情報を提示するGPS(Global Positioning System) を利用しているが、アイオイ・システムの位置情報システムもこれと類似した機能をもっている。即ち工場や倉庫などの構内で利用できる超音波と赤外線で位置情報を算出する技術を採用していることから、GPSに対してWPS(Warehouse Positioning System)と名づけた。
WPSは工場や倉庫の中の移動体(フォークリフト、カート、カーゴテナ、AGV、作業者)の位置を自動的に観測して提示することができるので、位置情報が必要とされるさまざまなアプリケーションシステムに採用されることになるものと期待されている。すでに、フォークリフトによるパレットの入出庫作業支援システムとして実用されている。
エピローグ
私は、製造や物流の現場実務は経験していないので、製造でも物流でも達人にはなれないが、それぞれの現場作業を支援する達人になってお役に立てれば、これ以上の幸せはないと思っている。アイオイ・システムが開発したDPS、S-ID、Smart-AIによって、製造と物流の工程全体のデジタル化が実現され、これらを統合したシステムであるDMS(Digital Manufacturing System)、DWS(Digital Warehouse System)によって、工場や倉庫のさまざまな状態の見える化が実現し、現場力が向上し、作業現場の安心と安全を提供することができれば幸いである。今後とも進化するアイオイ・システムにご期待下さい。
参考文献
(1):竹内宏編著 「東京元気工場」 小学館 2003年
(2):奥山睦著 「大田区スタイル 産官学連携×ITものづくりの復活」 日本経済新聞社 2006年
