
文化ファッション大学院大学
准教授
鈴木 邦成
第11回目のコラム 2008.08.14
グリーンSCMの推進 | 鈴木 邦成
● サプライチェーン全体のグリーン化を実現
周知のように地球温暖化の問題は1992年の「気候変動枠組条約」、1997年の「京都議定書」の採択により、世界的な取り組みとして認識されている。運輸部門の二酸化炭素(CO2)の排出量は全体の約20%に相当し、物流活動における二酸化炭素の排出量の抑制は重要な課題となっている。
2006年4月には省エネルギー法(省エネ法)が改正され、エネルギー消費量の伸びの著しい運輸分野における対策が導入された。一定規模以上の輸送能力を有する輸送事業者、貨物輸送に係る年間の発注量が一定規模以上である荷主に対して雀エネ計画の作成、エネルギー使用量辱の定期報告などが義務づけられた。
そうした流れを踏まえつつ、地球環境問題や循環型社会の構築を視野に入れての物流部門での環境規制の強化や新しい枠組作りが進展している。物流高度化の推進において環境負荷をいかに低減させていくかということが重要なテーマになってきた。
同時に環境負荷の低減を推進しつつビジネスプロセスの最適化を図るという観点から、サプライチェーン全体のグリーン化に注目が集まり、「グリーンサプライチェーンマネジメント」(グリーンSCM)という概念が広まってきている。地球環境問題の行方が懸念されるなか、サプライチェーン全体のグリーン化を行い、多企業間の情報共有、ビジネスロジスティクス、マテリアルマネジメントについての環境戦略を整備していく流れが強まっている。
循環型の物流を円滑に行うためには使用済みの製品をリユース、リサイクルしやすいかたちで設計、企画段階から考慮し、環境負荷を念頭に戦略的に流通チャンネルに流す工夫が不可欠である。動脈、静脈双方の管理を綿密に行いつつ、循環型システムを体系的に効率化する必要性が叫ばれているわけである。
従来の動脈部分の情報共有、ビジネスプロセスの最適化を推進するSCMに加え、環境負荷低減の視点の導入も必要とされる。すなわち静脈部分の情報共有、ビジネスプロセスの最適化を進める必要がある。無論、動脈部分の環境負荷の低減に加え、静脈部分についても環境武装を戦略的に展開しなければならない。
● 環境負荷の低減とコストメリットの両立を目指す
環境の視点から物流の高度化を語る上で指摘されることに「環境戦略の充実と物流効率の向上・コスト削減のトレードオフ(二律背反)」の問題がある。地球環境にやさしい物流を考えれば、リードタイムが長くなったり、輸送効率が悪化したりすることもある。反対にリードタイムの短縮や多頻度小口配送の充実など、物流の効率化を進めれば、環境に負荷をかけることにもなる。
それゆえ、これまでのグリーン物流戦略では「環境負荷を低減させることにより社会的なイメージアップを図る」ということが強調されてきた面がある。実際、グリーン調達、3R(リデュース、リサイクル、リユース)などの導入、推進について、コストメリットよりも社会的な好感度の向上などに力点が置かれているケースもいまだ多い。
だが近年、欧米などでは「環境負荷を低減させつつ、コストメリットを高める」という方向性をもって、物流システムの刷新、ロジスティクス戦略の再構築を含めてビジネスプロセスの最適化を図る動きが強まっている。ロジスティクス戦略をより綿密に構築することによって環境武装も充実させていくという考え方である。
グリーンSCMを構築し、動脈部門のみならず静脈部門をも含めたロジスティクス部門を中心に環境負荷の低減を徹底させつつ、ビジネスプロセスの最適化を進めることは今後の企業経営にとって必要不可欠と思われる。
実際、静脈物流システムの構築にあたっても高い戦略性が求められるようになってきている。リードタイムが比較的、長くなっても支障の出ないという静脈物流の特性を踏まえて、コスト削減が可能なかたちでモーダルシフトを導入する企業が増えてきている。回収ルートが長距離に及ぶというケースで航空便から船便へ切り替えて、環境負荷の低減とグローバル物流コストの大幅削減の双方を実現したという企業事例も報告されている。モーダルシフト、共同物流、3R、物流商慣行の改善、通い箱やリターナブルパレットの導入、あるいは業界共通の回収物流の基盤整備などについて、相互に関連性を持たせながらコストメリットも意識しつつ、包括的な導入を図る必要がある。
さらにいえば「在庫適正化を実現すればどれくらい環境にやさしいか」、「スペースロスの解消で環境負荷をどの程度低減できるか」といった視点からの定量的なデータを踏まえてのロジスティクス戦略の推進がこれまで以上に求められていくことになる。
物流におけるコストメリットの追求と環境負荷の低減というトレードオフをいかに解消していくかということを念頭に、今後、グリーンサプライチェーンの戦略的な設計と構築が不可避で重要なテーマとなることは間違いない。言い換えれば、物流のグリーン化をいかに戦略的に推進していくかということがこれまで以上に注目を集める時代となってきているのである。
筆者プロフィール
鈴木邦成(すずきくにのり)
文化ファッション大学院大学准教授。専門はロジスティクス理論、サプライチェーンマネジメント理論。日本物流学会理事。物流関連の主な著書には『図解 物流の最新常識』、『絵解きすぐわかる物流のしくみ』、『絵解き すぐできる流通在庫の管理・削減』、『絵解き すぐできる物流コスト削減』(いずれも日刊工業新聞社)、『はじめての物流100問100答』(明日香出版社)、『戦略ウエアハウスのキーワード』(ファラオ企画)などがある。物流、ロジスティクス関連の学術論文、寄稿論文なども多数。
